Rock'n'文学

猫ときどき小説書き

映画「運び屋」

下僕:閣下、今日はもう1本、映画の話したいんですけど。

まめ閣下:さっきずいぶんしゃべったじゃないか。

下僕:飛行機のなかで観て、時間がたつと忘れちゃいそうだから。

閣下:じゃ、手短にな。

下僕:はい、そんなに語ることでもないんで。これです。

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閣下:ああ、これは予も知っておる。

下僕:評判いいですよね。クリント・イーストウッド監督主演作品はまあこれまでもずっと評判もいいしヒットもしてきたんですけどね。わたしのなかでは、今回のこの作品がなんか新しい感じがして。

閣下:新作だから新しいだろうよ。

下僕:そういうんじゃなくて。なんか、クリント・イーストウッド演じる主人公の老人が非常にロックっぽいっていうか。なんとなくキース・リチャーズを思い出させるんですよ、歳とってさらに自由になってる。

閣下:ふうむ。

下僕:なんていうか、これまでのイーストウッド作品はどこかにまだアメリカ映画的ヒーローっぽさを引きずっているっていう印象を勝手に抱いておりましたが、今回の主人公はなんかちょっと違う。基本ダメダメなの。芯の部分には確固たるもの・彼なりの善なるものがあるんだけど。仕事に情熱を傾けすぎて家族には見放されて事業にも失敗するし。たまたま請け負った仕事がやばい仕事だってわかってからも、ずるずるとお金欲しさに続けてしまうし。でもすごく自由。怖ーい依頼主のいいなりにならない。自分のやりたいようにやって、それがたまたまうまくいって。女性にはとにかく優しくて、もてて。ダメダメなんだけど、やたらかっこいいの。

閣下:なんだ、じゃあやっぱりヒーローじゃないか。

下僕:うーん、既成の型どおりのヒーローとは違うような。根底には老境の虚無感があるのがやっぱり効いてるんじゃないかな。自分は年寄りでもういつ死んでも構わないし、退役軍人で戦争にも行ってるから恐ろしい目にたくさんあってるから、もうあんまり怖いものもないし。その枯れた感じがたまらなくかっこいい。もっと若い主人公だったらこの感じは出ないんじゃないでしょうか。なんていうのかな、老境の魅力、新しい老人像を見せてくれたっていうか。背中も曲がってヨボヨボなんだけど、年寄り、かっこいいっていう。

閣下:それって別にこの映画が初めてってわけじゃなかろうが。

下僕:そうかもしれませんが、言いたかったんですよ。ストーンズだって歳取ってからのほうが断然かっこいいじゃないですか。「シャイン・ア・ライト」っていうライブ・ドキュメンタリー観てからずっとそう思ってますが。なんかね、それと同じものを感じたんです。かっこいい老人にはかなわないよなぁって。

閣下:なんだい、爺専かい?

下僕:べつにそういうわけでは・・・。あ、でも、そういえば閣下だって人間の歳に換算したらもう88歳ですよ。イーストウッドとおんなじくらいです!お二人に比べたら、ミック・ジャガーなんてまだまだ若造…。

閣下:うぉほん、予は年齢などまったく感じてないぞ。獣医さんにも看護師さんにも「まだ10歳くらいにしか見えませーん!」なんてきゃあきゃあ言われてるんだからな。

下僕:そうでしたね、灯台下暗し。閣下こそ新しい老猫のアイコンでありますね。失礼いたしました。