下僕:ねぇ閣下、わたくし昨夜イタリア映画祭で、「月を買った男」というのを観てきたんですけどね。
まめ閣下:ふむ、どんな話なんだ?
下僕:イタリアのサルデーニャってところに住む誰かが月を買った、って未確認情報が世界中の諜報機関に流れてきて、真相を探るために一人のサルデーニャ出身の特殊部隊員がサルデーニャに送り込まれることになるんですが、そいつはちょっと理由があってサルデーニャ出身というのを隠してて名前も偽って生きていたのでサルド(サルデーニャ語)は話せても風習や習慣はまったく知らない人間だったってんで、諜報機関の命令である男のの下でサルデーニャの風習に馴染む特訓を受けることになるんですよ。
閣下:ふむ。サルデーニャってのはイタリアだろ? そんなに違うもんかい?
下僕:えっと、日本でいうなら沖縄みたいな、と言ったらいいですかね。かつては別の国だったから言葉も風俗・習慣も独特なものがある場所でして。
閣下:なるほど。で?
下僕:いろんな生活習慣を学んでいくってところで、ほら、例の生きた蛆虫が入ったチーズが出てきたんですよ。あれは衛生上の理由で何年も前に禁止されたはずだけど、って思って。
閣下:例の、とか言われて予は知らんよ。
下僕:ああ、閣下はチーズ召し上がりませんもんね。そのチーズについての熱い思い入れを語ってる人がいるんで、こちらをご覧くださいませ。
http://rubinokouseiyouso.blog.fc2.com/blog-entry-457.html
閣下:まあチーズのことはわかったが、映画の話じゃなかったのか?
下僕:ああ、はいはい。映画の中盤あたり、サルデーニャ文化修業が無事終了して主人公がサルデーニャに出発した直後に、その師匠が諜報機関によって唐突に殺されちゃうんですよ。これにはちょっとびっくりして。必然性があんまりないよなぁって感じで、ストーリー的にこれってどうなんだ? って疑問がなんとなくそのまま尾を引くっていうか、違和感を覚えるってやつですかね?
閣下:ああ、町田さんの京都の講座で触れられてたやつか。
下僕:そうそう。まあ、この映画自体コメディ、コメディって言ってもイタリア映画のコメディってのはただ面白おかしいだけじゃないんですけどね、まあそれはとりあえず置いておくとして、あちこち現実離れしたところがある映画なんでまあそういうもんかなって思いつつ観ていったんですけど、映画の終盤になって主人公がその月を手に入れたという人物に出会ったところで、その死んだ師匠が出てくるんですよ。
閣下:お化けになって?
下僕:お化けっていうか幽霊っていうか、もっと自然な感じで。
閣下:マジックリアリズムってやつか?
下僕:ええ、たぶん。
閣下:まあ、とくに珍しいもんでもないけどな。
下僕:ああ、はい。とくにイタリア南部のほうを舞台にした作品ではよくそういうの観てるんですけどね。まあとにかく、その師匠っていうのが、サルデーニャを本当に愛していて心から帰りたいと思っていたにもかかわらずどうしても帰ることができない深い理由があった人だったんですよ。でね、サルデーニャの言い伝えでは月には死んだ故郷の英雄たちが住んでいるっていうのがあると主人公に教えてくれるんです。月は大切な場所なんだって。そこから物語は一気に終盤に向かうわけなんですが、そこに来てわたくし「ああ、そうだったのか」ってようやく腑に落ちたんです。唐突すぎるように思われた師匠の死の、この話のなかの意味づけが。そうか、師匠、やっと故郷に帰ってこれたんだって。そしたらふいにうるってきちゃって。えっと、ラストはあまりに奇想天外なんでここでは言いませんけどね。
閣下:なんだい、教えてくれんのか。
下僕:閣下には脳内伝達でお見せしますよ。でもまだこれ、日本では一般公開されてませんからね。ネタバレ厳禁。
閣下:それもそうだな。
下僕:ってわけで、なかなかわたくし的にはいい映画でございました。そうそう、会場は毎年通っている朝日ホールだったんですけれど、有楽町マリオンがちょっとリニューアルしてて様子が変わってたんですよ。地下通路から上がったところのエレベーターで11階に上がったら、降りたところにもんのすごい行列ができてて。うそ、今日の映画ってそんなすごいの? って驚きつつしばらく並んでたんですよ。でもふと辺りを見回すとどうも客層が違う。100%若い女子。これはどうも変だなぁと思って行列の先をみたら新しくできた劇場だったんです。あっ、こりゃいかんって、もう開演時間ギリギリだったし大慌てで朝日ホールへ向かってなんとか間に合ったというわけです。
閣下:ははは、若い女子ばっかりの列に。そりゃあ、浮きまくっていたことだろうな。愚なやつよ。で、それはなんの行列だったんだ?
下僕:はい、後で調べてみましたところ、どうやら「2.5次元アイドル」?とやらのイベントだったとか。2.5次元アイドルって何ですかね?
閣下:知らんのか? ははは、ほんとに愚なやつよの。