Rock'n'文学

猫ときどき小説書き

2019年4月3日トークイベント「危機の時代・文学の言葉」@講談社

下僕:少し前の話になっちゃうんですが、こんなイベントにわたくしが出かけましたの、まめ閣下憶えていらっしゃいますか?

まめ閣下:ああ、多和田葉子さん、佐伯一麦さん、松浦寿輝さんの対談っていうんで、いそいそ出かけて行ったやつだな。

下僕:そう、で、行ってみたらなんとスペシャルゲストとして古井由吉さんまで登壇されたというなんとも超豪華な顔ぶれであったんですよ。各人それぞれのお話が非常に意義深くてね。だから聴く側も思索を深める時間が必要なのでありますが、限られた時間内でみなさんのお話を聞くために次々と質問を別の方に振っていくものですから、その都度ちょっと話のリンクが途切れてしまうところもあって、正直、全体としてちょっと散漫な印象になってしまったのは否めませんでした。

まめ閣下:まあ、それはお前の頭の造りが愚だから、であろうよ。

下僕:はぁ、それはその通りでございますがね。なんというか、やっぱりおひとりかおふたりのお話をじっくり聞くっていうほうがいいんじゃないですかねぇ? ほら、映画だって、主役級の俳優がたくさん出ていたらいい映画になるかっていうとわりとそうじゃなくて、逆にB級感が漂っちゃうってことあるじゃないですか。B級感ってまではいかなくても、ちょっと今一つ何やりたかったのかぼんやりする、みたいな。

まめ閣下:あれだろ、バイキング方式で美味しいものがずらりと並びすぎてて逆上していろいろ盛りすぎて、ふと席について皿の上の料理をみたら、なんか一貫性がなくて食事としては非常に残念な感じになってしまっている、というやつ。

下僕:あれ? 閣下なんでバイキングとか知ってるんです? 猫OKのバイキングなどございましたっけ?

まめ閣下:おほん、予はなんでもよく知っておるのだ。

下僕:ああ、テレビをよくご覧になってますからね。まあ、それはいいとして。

まめ閣下:で、そのトークイベントがどうした?

下僕:ああ、それそれ。今回わたくしが一番お話を楽しみにしていたのは、多和田さんでありました。「献灯使」がアメリカで「全米図書賞」の「翻訳書部門」を受賞されたばかりということもあり。で、イベントのなかで多和田さんは、この作品集がアメリカで海外文学賞を獲ったことについて、

「今、アメリカではすべてにおいて排外主義が強烈になっていて、文学においても外国語で書かれた文学なんて誰も読まない、読む必要がないというような風潮になってしまっていて、それに抗うという意味をこめて、こんなアジアの小国の、ほとんど影響力もない言語の小説に対して賞をくださったのだと思う」

ということをおっしゃっていたのが印象的だったんです。それを聞いてわたくしは、ああ、やっぱりアメリカは日本よりもずっと健全な国だ、少なくともあんな腐った大統領が支配する政治に対してまっとうな思想を持って行動によって抗議できる市民がいるんだ、うらやましい、と思ったのでございますよ。

 

まめ閣下:ふむ、にゃるほど。さすが多和田さん、ずいぶん冷静かつ客観的な分析であるにゃ。

下僕:あれ? 閣下も多和田さんの作品読まれてましたっけ?

まめ閣下:あたりまえだ。下僕が読んだものはすべて脳内伝達で読んでおる。多和田作品のうちでもっとも好きなのは「雪の練習生」だ。

下僕:あら、わたくしもおんなじでございますよ。

閣下:下僕にしては趣味がよいな。

下僕:うほん、それでですね、最後に質疑応答みたいなのがあって、質問がなんだったか、すでに記憶が怪しくてなんなんですが・・・

閣下:本当にその記憶力の貧弱さ、どうにかならんのか。

下僕:はい、すみません。しかし、多和田さんがお答えになったなかに、「子どものころからいつも(みんなの)外側から見ていたから、小説を書くことになった」というのがあって。つまり、共同体というか同じ年頃のお友だちとか人間関係の輪のなかに自分を置くことができなかった、人の外側にあった、ということをおっしゃっていたのです。

 

まめ閣下:ふむ、それなら、ほれ、ついこの前の記事でお前が取り上げておった「文藝2017年冬号」の、古川さんとの対談のなかで町田さんもおんなじことを言っておったではないか。

下僕:えっ、そうでしたっけ。

まめ閣下:んにゃもう、ほんとにお前の頭は帽子掛けか。ほれ、「すべての人が生きていい世の中にしたい、俺も幸せになれる世の中になりたい」って子どものころから思っているっておっしゃる古川さんに対して、町田さんはあっさり「無理」って断言してたではないか。「小説家は無理ですね。小説家は幸せになれない。ちょっとね、人間の外に在るから」って。「中に入れてもらえないから書いているのかもしれない」って。

下僕:おお! まさに多和田さんと同じことをおっしゃっている!

まめ閣下:だろっ? とくに珍しい話でもあるまいよ。予だってずっとそう思っておる。つねに人間の輪の外側にいるぞ。

下僕:そりゃ、閣下は猫でありますからねぇ。

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