Rock'n'文学

猫ときどき小説書き

読書会まとめ「居た場所」高山羽根子

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下僕:まめ閣下、ゆうべは絶叫ライブめずらしくお休みでしたね?

まめ閣下:昨日は謁見を求める民が大勢参ったからな。さすがに疲れて朝まで気絶眠であった。

下僕:謁見を求める民って。閣下、あれは小説塾の生徒さん、講師を招いて作品を読む会の参加者さんたちでしょ。たくさん撫でられてかわいいとかなんとか言われてデレデレしてたくせに、なんですか、その言いようは。

まめ閣下:ああ、大勢集まったと思ったらやたらまじめな雰囲気の勉強会みたいなのが始まったからちょっとびっくりしたぞ。なにせ我が屋敷ではそんなことは前代未聞、人数が集まればたいていは酒が入ってのバカ騒ぎだからなぁ。

下僕:ややっ、なんですか、その非難がましい物言いは。小説塾については事前に閣下にもお伝えしていたはずでございますよ。猫であるがゆえになかなか外で講座など受けられない閣下にとっても、またとない機会でしたでしょ?

まめ閣下:まぁ、そうではあるが。講師っていうのはいったいなんだ?

下僕:平たく言えば先生ですよ。講師のN氏は元編集者で、現在はあちこちで小説講座をやっていらっしゃっる多忙な方なんですよ。どの教室も超人気でキャンセル待ちが出てるくらいなんですから。そのN氏が、まあ長いつきあいということもありまして、古くからの受講生たちを対象にごくたまに私塾みたいなかたちでお引き受けくださることになったんです。内容は、昨日閣下がごらんになったように、塾生の作品やプロの作家の作品を合評していくというものでして、おそらく他のところでは「読書会」と読んだりするものに近いのかなと思います。

まめ閣下:なるほど。

下僕:あ、でも塾生のなかにもすでにプロデビューしてる方もいるんで、塾生作品と言っても発表前のプロの作家の作品も混ざっているという。

まめ閣下:そうだったな。予も興味深くみなの評を聴いておったぞ。

下僕:まあ塾生の作品はいずれもまだ世に出ていないものですからここでわれわれが話し合っても読んでいる人にはわかりませんね。

まめ閣下:プロの作家の作品で昨日取り上げたやつがあるではないか。

下僕:はい。高山羽根子さんの「居た場所」ですね。あ、そうだ、せっかくですから閣下がみなの講評をまとめてくださいませよ。興味深く聴いてたんでしょ?

まめ閣下:にゃ、にゃに? 予が? まとめ?

下僕:はい。 文学を熱く語る猫として、初の試み。わたくしは昨日は初の主催でいろいろ準備などあっていまひとつ集中力を欠いておりましたゆえ。お願いしますよ。そうそう、もともとこのブログは閣下のブログではありませんか。

まめ閣下:う、そ、それを言われると・・・。

下僕:閣下? 瞳孔が開いてますよ。ひょっとして怖気づいてます?

まめ閣下:ば、ばかを申すな。予に恐れるものなどないわ。

下僕:では、よろしくお願いしまーす。

まめ閣下:えー、おほん。じゃ、じゃあ、いくでごじゃるよ。

 まずは、塾生たちの感想。平易だけれどところどころに光る表現があって好きだった、とか、マジックリアリズム的世界が好き、とか、イメージの広がりを楽しむ作品だと思うとか、みんにゃ結構好きみたいだったにゃ。でも一方で、舞台になっている場所とか語り手の仕事内容とかはっきり書かれていない部分が多く読み進むのに時間がかかったという人もいたにゃ。タッタという動物やら地図に書かれていない古い市場とか緑色の液体とか様々なものが出てくるけれど、それがメタファーだとしたらなんなのか、最後まで読んでもよくわからなくて難易度は高い、という意見もあったみたいにゃ。

 N氏は、外国から介護職の勉強に日本にやってきて、家族で何かの発酵製品を作っている作業場で働く語り手と結婚して、語り手の母が亡くなるとその代わりとしてしっかり働いて、という小翠という女性の環境に順化していく生き方と発酵に欠かせない微生物とを重ねている作品、と言っていたにゃ。この作品はこの前の芥川賞の候補にもなったけれど、その選評を読むと、高く評価している選考委員も何人かいたけれど、やはり、いいとっかかりがたくさんあるのにそれがそのまま放置されている、とか思わせぶりな設定がいろいろあるけれど回収されていないとか、やはり何人かの塾生たちがとまどったのと同様の意見が出ていたみたいだにゃ。しかしこの作品が雑誌に掲載された直後の別の合評では、まさにそのあいまいさ、場所などの名前が出てこない点が逆に評価されていたんだにゃ。場所、生き物やその生態、主人公の具体的な状況など多くが「架空」であるというのがこの作品。「現実の土地も名前をひっぺがせばただの"場所”になる。それを形作るのは記憶」というところが、この作品の肝にゃんじゃにゃいかっていうんだにゃ。「入植者」という表現も、ひょっとしたら異星人なのかも、とかあるいは微生物みたいに別の生物かも、とも思わせる、SF味が魅力とも言ってたにゃ。

 実は高山さんは以前この作品の原型と思われる作品をN氏の教室に提出していたんだってにゃ。そのときは50枚にも満たない短い作品だったらしい。その作品では語り手の作っているものも「酒」とはっきり書かれているし、なぜ小翠がこの古い市場に帰ってきたかったのかもはっきりと語らせていたらしいんだにゃ。タッタなんて出てこないし、とにかく作品の芯になっているのは微生物だとはっきりしていた作品だったらしいんにゃ。N氏によれば高山さんはとにかく推敲を何度も何度も重ねていくタイプで、この作品もかなり意識的に、わざと具体性をはぎ取っていろいろな部分をあいまいにしていくという作業をやったんではないか、って推測してたにゃ。いわば「架空」性を高めて磨いたのがこの作品、というわけだにゃ。そこが魅力であるはずにゃのに、評価されなかったのは残念だとにゃ。はぁー(ため息)、そんなもんかにゃ。

下僕:閣下、すごいじゃないですか。(小声で)まあきっとすべてその通りじゃなかったとは思うんですけど。

まめ閣下:ちょろいぜ。(ドヤ顔)

下僕:でもひとつ言ってもいいですか。

まめ閣下:なんだ?

下僕:なんだかいつもと口調が違ってません? 妙にかわいこぶって。

まめ閣下:おまえはやはり愚よの。これはわざと、じゃ。わざといわゆる「猫っぽいしゃべり」でやっておる。予が猫であることを強調したのじゃ。

下僕:ふぅん、猫キャラを演じているてぇわけですか。

まめ閣下:そう、これがほんとの猫かぶり、なんちて。

下僕:・・・(寒)