Rock'n'文学

猫ときどき小説書き

【読書会】2020年1月26日 町田康作品読書会@猫町倶楽部

下僕:閣下、最近たくさんの人がこのブログを読んでくださっているようなんですよ。

まめ閣下:へぇ。そりゃ驚きにゃ。賢い猫君主の話を聞きたいというならわかるが、その予と愚かな下僕の雑談をわざわざ読んでくれるとは物好きもいるもんだにゃ。

下僕:はぁ。もとはといえば、わたくしの記憶力がなんとも残念なのでせっかくいい話を聞いたりしてもすぐに忘れてしまう、そりゃにゃんとももったいなかろう、ということで閣下に報告するというのを始めたんですもんね。人様に読んでいただくというよりは、自分のための備忘録的な感じで。それが少しでも誰かのためになるなら、こんなうれしいことはございません。

まめ閣下:誰かのためになっているかどうかははなはだ疑問であるが。まぁ、暇つぶしくらいにはなるんであろう。

下僕:はいはい、そんなくらいの感じで満足でございますよ。さて、この前の日曜日、前日のとは別件で読書会がありました。猫町倶楽部というところが主催で、町田康さんの「くっすん大黒」「告白」「しらふで生きる」のうちどれか一冊を選択しての読書会で、著者である町田康さんがゲストとして参加するという非常に豪華な会でした。参加者も120人ほどいて、行く前はこんなに大勢でどうやってやるんだ? と疑問に思っておりましたが、課題ごとに小さなグループに分かれて話合うというものでした。そこに町田さんが順番に回っていって、参加者と直接お話をする。それが終わってから、全体で町田さんのトークを聴く。本編はそこまでで、その後は希望者のみで懇親会が用意されているという大きなイベントでありました。

 

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まめ閣下:そりゃすごいな。で、諸君はどれを選んだんだい?

下僕:はい、わたくしは「くっすん大黒」を。三冊全部読んではいますけど、これなら短いし再読も楽かなと。

まめ閣下:また、そういう怠惰なことを申す。

下僕:しかし前に読んだのも十年以上前でしたので、今回再読してみて非常によかったですよ。前に読み飛ばしていたところに発見があったり、自分の読み方がだいぶ変わっているのに気づいたり。

まめ閣下:そんなこと言って、諸君の場合には記憶力がアレだから前に読んだ内容とかあんまり憶えていないんじゃないのか。

下僕:ぎ、ぎくっ。そ、そ、そ、そういうことはまったく・・・ございます。が、しかし、やはり最初の作品にその作者のすべてがあるとも申しますしね。あ、そうそう、今回ほんとにそれを感じたんですよ。

まめ閣下:ほう。

下僕:くっすんを再読する前に「しらふで生きる」を読了していたんですけど、くっすんの冒頭で、いきなり「あああ!」ってなったんですよ。これはまあ、家にある奇妙な大黒様の置物を捨てようと思うんだけどなかなか捨てられなくて奔走する話なんですけどね、その大黒をなぜ捨てようと思ったか。それは、鏡に映る自分が酒を飲みすぎて膨れ上がりあちこち垂れさがった大黒面になっていると発見したからです。それでむかむかして大黒の置物を捨てようと思い立つわけですが、つまりこれって、酒を飲みすぎて醜悪になってしまった自分を捨てたい、という潜在意識の現れじゃあないですか。もっともよい捨て方を探して、一度は捨てたもののいやもっと効果的なやり方で、とかいろいろ考えすぎて千載一遇のチャンスを逃したりすることにも、大黒に対する愛着が見えますよね。やはりどこか自分だと思っているのでは。そう考えると、「しらふで生きる」のなかで、ある日突然酒をやめようと思い立つ作者に繋がっているじゃないか、と思ったんですよ。しらふでのなかに詳しく「なぜやめようと思い立ったか」は書かれていないんですが、もうデビュー作のなかにすでに「酒を飲んでいる自分を捨てたい」作家がいたんですよ。というようなことを、町田さんが我々のグループに回ってこられた時に直接尋ねたら、「いや、これを書いたときにはそんなことはまったく考えてもいなくて、ただ酒を飲みすぎてなにもかもまったくあかんようになったダメな人間を書こうと思ったのだ」とおっしゃいましたが。

まめ閣下:ははは、いきなり全否定されたわけだにゃ。

下僕:いや、わたくしが思ったのはですね、もちろんこれを書いたときには大酒を飲んでいたわけですし本人にもそのような考えはまったくなかったろうと思うんですが、ただ自覚はなかったけれども今から思えばそのような潜在意識というのが当時からあったのではないか、ということだったのでございます。でも「そういうことはまあ、批評家とかが考えることじゃないですかね」と言われてしまいました。(撃沈)

まめ閣下:たしかに作者に訊いてもしかたないことだにゃ。そんなん知らんわ、にゃ。

下僕:はい、そうでした。これはただの「個人的な感想」というやつでした。あともうひとつ、別の方が、「亀を爆発させたり、一緒に入っている「河原のアバラ」では猿を茹でたりしている場面、発表当時に読んだときはただアハハおもしろいなと笑っていたのだけれど、今読むとずいぶん酷いことだなと感じたしSNSなんかでも問題になりそうなことだと感じた」とおっしゃったんです。それに対して町田さんが、「そういう感覚は時代によって変わるんです。あのころはまだ今みたいにみんながセンシティブじゃなかった。だから今みんなが感じたりしていることもあと何年かしたらまたまったく違う評価になるかもしれないですよね」ということをおっしゃって、あ、それ、「告白」で熊太郎に言わせてますよね、って思いました。やはりデビュー作ってその作家を知るのには大きいですよ、作家のすべてとは言いませんが。

まめ閣下:にゃるほど。

下僕:あと、こうやって作家と直接話せる機会だからってことで、ついつい「あの場面のあの意味は」とか「どうしてこれはこうしたんですか」と聞きたくなってしまうのもわかるんですけど、町田さんは「そういうのは答えを訊いて近道で知ろうとするんじゃなくて、自分で考えて答えを探していくほうがいい」とおっしゃって、はっとしました。これはのちのトークでも語られたことですが。

まめ閣下:それ、どっかの講座でも言ってたような。報告を聞いたおぼえがある。

下僕:はい、そうですよね。わたしもそう思って、このブログのあちこちを探してみたんですけどね。たしか、「手軽に栄養とるためには食事なんかじゃなくてサプリ取ってりゃいいじゃん」みたいなたとえ話されてたような。なかなかみつかんなかったんですが。

まめ閣下:まったくどうにもどんくさいやつよの。

下僕:あ、ちょっと話それますが、小グループでの質問に対する町田さんの回答でどうしても報告しておきたいことを思い出しました。

まめ閣下:うん、にゃんだい?

下僕:はい、一人の参加者が「町田さんの作品にはすごく変わった人がいっぱい出てきて面白いんですが、それはいろんな人を観察されて書いてるのですか?」というような質問(ちょっと内容うろ覚え)をしたんですね。それについての町田さんの答えは、「ああそれよく言われるんです、モデルはいるんですか、とか。でも違うんです。そうやって訊く人は自分は違う、まともな普通の人間だと思っているでしょ? それが間違い。人間はみんな変なんです。普通にそこらにいる人、誰もがやることを書いたらそれが面白いんです」。これ、普通の人のやることが面白い、このまえの山頭火についての対談のときにもおっしゃってました。なるほどー、と思いましたが、普通の人のやることを普通に書いたってそんなに面白くならないですよね。それは町田さんが書くから面白くなるんであって。それはどういうことかっていうと、やっぱり徹底的に観察して、自分とは違う人だと思って書くんじゃなくて自分もまた同様におかしいという自覚をもって書くってことじゃないかとわたくし思いましたよ。自分が普通、当たり前、という認識で書かれたものはつまらないですから。

まめ閣下:いい気づきではないか。

下僕:おほほ。ありがとうございます。あ、講座の記事、やっとみつけました。この日のトークは30分くらいの短いもので、内容もだいたいよその講座とかでされていたものでしたので、下にあげときます。読書会なのでテーマはいかに読むべきか、というようなものでした。町田さんが考える、より深い理解へとたどり着ける道とは:

1.最短を行こうとしない

2.100冊さらっと読むより1冊を100回読む

3.ひとり(孤独)に耐える

1は、効率よく正解を手に入れようとしないこと、です。「どの本を読んだらいいですか?」とか質問する人が多いけれど、それは自分で探せ、と。自分で考えて探していくことでより深い理解へつながる。2については、何度も読めばそのたびに発見がありより深い理解へたどり着ける。3は、まずは一対一で本と向き合うことの大切さを述べていました。誰か(他の人あるいは作者)にとっての正しさが万人の正しさではない。本を読んで誰かと意見交換する前に、まず自分の考えを十分に発酵・熟成させる時間が大切。発酵・熟成する前にSNSとかにつぶやいちゃうと抜けちゃうから、と。これは書くほうにも言えるんですけどね、って言われてドキっ。ついつい今書いている話のこと、しゃべりたくなっちゃうときありますからね。

というような感じのお話で、以下の記事あたりに詳しく書いてますので、拾い読みしてみてください。トークのなかで紹介された「阿房列車」とかについてのお話もあります。

rocknbungaku.hatenablog.com

rocknbungaku.hatenablog.com

 

まめ閣下:なかなか、ブログも無駄ではにゃいな。

下僕:他の人はともかく、自分のメモとしてかなり有用でありますよ。では最後に決めのお言葉を。

― 人が賢くなる方法はひとつしかない。それは本を読むことである。(町田康

 

 

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